本屋さんで本棚を前にして本を選ぶ際にはタイトルも重要で、長ったらしい意味不明なタイトル(誰とは言いませんが)もイイのですが、簡潔なモノであっても、「ん?この単語は何だ?」と思わせるだけでも手に取って裏のあらすじに目を通させる効果があると思います。ある業界では珍しくも無くて普段から当たり前に使われている言葉であっても、一般には知られていない単語などは目を引く可能性がある訳ですね。
「完盗オンサイト」 - 玖村まゆみ
報酬は1億円。皇居へ侵入し、徳川家光が愛でたという推定年齢550歳の○○を盗み出せ。前代未聞の依頼を受けたフリークライマー水沢浹は、どうする?どうなる?不気味な依頼者、別れた恋人、人格崩壊しつつある第3の男も加わって、空前の犯罪計画は、誰もが予測不能の展開に。
「オンサイト」というのはフリークライム用語で、事前に一切の情報を持たずに初見のトライでルートを"完登"する事らしいです。皇居に盗みに入るというのは、確かに前例をあまり聞かないので、そのチャレンジは「オンサイト」の栄誉に相応しいトライでしょう。
なるほど、トップフリークライマーならば石垣で守られた皇居でも侵入可能であろうという発想一発の勢いのままで一気に書かれた話なのでしょうか、残念ながら、斬新な(?)アイディアはよかったのですが、ソレを綺麗な形にするだけの技量が不足しているように感じられました(^^;)。
盗みの話に加え、元カノとのゴタゴタや、居候しているお寺に預けられている子供との間の話、の大きな3つの流れがあるのですが、個々のエピソードのリアリティなどは創作なのでこの際目をつぶるとしても、それらサイドストーリーがもし書かれていなかったとしても話の本筋には基本的に影響しないのではと思えてしまうところが練り込み不足に感じる所以かと思います。
その上、肝心の盗みに入るのが終盤も終盤、おいおいページ数足りるんか、と心配になるような辺りになってからサササッと進んでしまう、というのも物足り無さと味気無さを助長しているように思えます。コラコラ、ソコがこの話のメインディッシュと違うんかいと。
それでも「勢い」で書かれた話は読ませる勢いも持ってるモノで、「そんな適当な~」などとツッコミを入れつつ、途中で投げ出す事も無く完読オンサイト致しました。勢いで江戸川乱歩賞も取っちゃったそうなので、今後「アイディア一発以外」で面白い話が書けるのかどうかが楽しみではありますね(^^;)。
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